今週一週間のこと
今回はちょっと年上のお姉さんについて書こう。
フランス語で言えばマダムではなくマドマゼル。
おそらく未婚の働く女性についてだ。
【西武百貨店の万年筆売場の女性】
昨年の春から僕としてはなんだか印象深い人だったのだが、
とにかく万年筆に対する尋常ならざる情熱を胸に働いているようだ。
「書き味だけでも感じて、知ってください」
ショウ・ケースを覗いている僕に声をかけてくる。
4本くらい試し書きさせてくれた。
僕が今使っている万年筆がカートリッジでは好きなインクは使えないからと、インクをピストン運動で吸い上げるコンバーターを買いに行った時もその女性だった。
というかその人がいることを期待して大学側の東武百貨店ではなく西武に行ったのだ。
祖父からもらったモンブラン。
そのことを話すと嬉しそうに、あるいは穏やかな表情で聞いてくれた。
「古い型なので、修理に出すとかなりお金がかかるんですよ。とにかく大事に使ってくださいね」と言ってくれた。
この話に続きなどない。
ただ印象深い人を挙げただけ。
【図書館のカウンターの女性】
大学の図書館のカウンターにとても眼鏡が似合っている女性がいる。
最近流行のちょっと知性を感じさせないアラレちゃん眼鏡ではなくて、銀色のスチール・フレイムの小さな眼鏡だ。推定どこかの女子大の文学部を出て数年といったところ。(なにより司書さんらしくネイビーカラーのエプロンを着ている)
昨年の冬にクラシックのCDが借りられることに気付き度々借りるようになった。
書籍以外は自動貸し出し機が使えないこともあって、毎回カウンターに持っていくのだが、ある日、一種の自意識過剰な感覚に苛まれたのだ。
――もしかしたら「クラッシクCDの人」と彼女は僕を記憶してくれたのかもしれない。
学生証を出して借りるとき、そして返却するときの視線や口調が以前と比べ柔らかくなったのを感じた。「あなた19世紀にかぶれているわね、リストやシューベルトばっかり。二人とも名前はフランツなのよ」なんて想像するも事務的な言葉以外は一切語りかけてくれない。冬の旅は未完成なのだ。
当たり前だけど彼女以外の中年の女性が貸し出し作業をしてくれることもあったが、偶然にも彼女(ここでは本の精と呼ぼう)が一番多かった。
火曜日、そんな本の精に叱られた。
貸し出し期限を一日過ぎてしまった本を返した時に「昨日返すの忘れてました」なんて言いながら様子を伺うと「次回からは気を付けてくださいね」といった具合。
全く個人的な繋がりはないし、男子校の高校生みたいな妄想をベースに注目している。異性としてではなく日常を彩る楽しみとして。もちろん他意はない。別に男性でもよかったのだ。
この話に特に続きはない。