社会調査士への道
たしかゴーギャンの絵みたいな夏の日だった。
その夏、僕は高校1年生で、ある女の子に恋をしていた。
そして想いを告げて玉砕した。
かねてから、僕の想いは透けて見えていて「わたしなんかじゃ人生無駄にする」なんて言われてた。それで、脈がある!と思ったのが根本的に間違いだったらしい。
結局「なんか違う気がする」と言いにくそうに言われた。
16歳の僕の恋は終わった。「友達と恋人の境界」という形而上学的問いを残して。
8月のおわりに行われた衆院選で民主党が大勝し、自民党が野党になった夏の話である。
それから何年かして、民主党は二大政党制を担いきれずに失墜し、複数ある革新にもなりきれない野党のうちのひとつに戻った。
若者が口にする言葉に特有の「なんか」を分析している。
ゴフマンが提唱した「フェイス・ワーク」という概念は、コミュニケーションを行う際に、相手のフェイス(つまり面子)を尊重し、それをつぶさないように配慮したり、反対に、わざと面子を潰したりする行為を説明する。
このフェイス・ワーク概念で「なんか」を説明する。
あの女の子は「なんか」という言語使用によって、なるべく僕を傷つけないように直接的な言い回しを避けてくれたのではないだろうか。もちろん無意識のうちに。
哀しい気持でも当時のように辛い気持でもなく、それがとても自然なことであるように思い出した。
いまとなってはレポートの具体例にするくらいだ。
若者言葉を分析する今年の夏の僕はそこそこイカしている。
最近は電車内の女子高生や、大学のラウンジで女子大生のおしゃべりに耳を澄ましている。
昨年のフィールド実習で大学に買ってもらったボイスレコーダーを活用するときが来た。
ここで疑問。
盗撮は立派な迷惑防止条例違反である。盗聴は?
かつての言語学者のデータ採取方法はそれはひどいものだった。
アメリカの研究であるが、大学内の女子トイレにボイス・レコーダーを設置したのだ。
(電車内「盗聴」の容疑で男子学生が逮捕されたら、それは僕のことなので笑ってやってください。)
こんな人間が来年、社会調査士(見込み)を取得する。
統計が苦手だけど、社会学が社会科学たるためには必要なことだ。
数学と仲直りするときが来た。でもたぶん大丈夫。
人間が公式に適切な数字を当てはめる。計算するのはコンピューター氏だ。
ちなみに社会調査士の資格は、指定された単位を取り大学を卒業すれば取得できる。